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名古屋地方裁判所 昭和63年(ワ)846号 判決

原告、反訴被告(以下「原告」という。)

木村里芳

右訴訟代理人弁護士

岡本弘

右訴訟復代理人弁護士

中根正義

参加人、反訴原告(以下「被告」という。)

有限会社フジレジャーサービス

右代表者取締役

吉本尚和

被告(脱退)

有限会社協徳産業

右代表者代表取締役

夏山徳雨

被告(脱退)

夏山徳雨

被告ら訴訟代理人弁護士

高山光雄

山田信義

弁護士高山光雄訴訟復代理人弁護士

増田聖子

主文

一  原告と被告との間において、原告が別紙物件目録記載の建物につき、有限会社協徳産業と原告間の昭和六二年二月賃貸借契約に基づく期間の定めのない、昭和六二年二月一日現在の賃料一か月一五〇万円、保証金一五〇万円とする賃借権を有することを確認する。

二  被告と原告間の別紙物件目録記載の建物についての賃貸借契約における賃料は昭和六三年一一月一日から平成三年一〇月三一日まで一か月金一七四万四〇〇〇円、平成三年一一月一日から一か月金一九六万六〇〇〇円であることを確認する。

三  原告は、被告に対し、金六〇一万一〇九二円及び内金二一九万六〇〇〇円に対する平成四年三月二六日から、内金三七七万〇〇三三円に対する平成四年六月一八日から各支払い済みまで年一割の割合による金員を支払え。

四  被告のその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は本訴反訴を通じこれを五分し、その一を原告のその余を被告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一本訴

主文第一項同旨

二反訴(予備的)

1  被告と原告間の別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)についての賃貸借契約における賃料は昭和六三年一一月一日以降一か月金三〇〇万円、平成三年一一月一日以降一か月金三三〇万円であることを確認する。

2  原告は、被告に対し、金五二五〇万円及び内金三〇〇万円に対する昭和六四年一月一日から、内金一八〇〇万円に対する平成二年一月一日から、内金一八〇〇万円に対する平成三年一月一日から、内金一三五〇万円に対する平成三年九月一日から各支払済みまで年一割の各割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本訴は、パチンコ営業用の建物の賃借権の確認請求に対し、一時使用のための賃貸借であったとして解約申し入れによる契約の終了が主張されている事案である。

予備的反訴は、右賃貸借契約につき、賃料増額請求に基づく増額後の賃料額の確認及び増額後の賃料と支払済みの賃料との差額の支払い等を求めるものである。

一争いのない事実

1  訴外夏山徳雨(以下「夏山」という。)は、もと本件建物を所有していた。

2  被告(脱退者)有限会社協徳産業(代表取締役夏山 以下「協徳産業」という。)は、夏山から授与された権限に基づき、原告に対し、昭和六二年二月一日、本件建物を賃料月額一五〇万円(翌月分を月末持参払い)、期間を一年間として賃貸し(以下「本件賃貸借契約」という。)、引き渡した。

3  協徳産業は、原告に対し、昭和六二年七月ころ、本件賃貸借契約を解約する旨の意思表示をし、昭和六三年一月三一日限り本件建物を明け渡すことを請求した。

4  夏山は、被告に対し、昭和六三年三月一一日、本件建物を売り渡した。

5  被告は、第3項の解約を理由に、本件建物についての本件賃貸借契約に基づく原告の賃借権を争う。

6  被告は、本件建物に対する原告の賃借権が認められた場合に備えて、原告に対し、本件賃貸借契約に基づく賃料について、昭和六三年一〇月二六日、同年一一月一日以降一か月三〇〇万円に、平成三年九月二五日、同年一一月一日以降一か月三三〇万円にそれぞれ増額する旨の意思表示をした。

二争点

1  本訴関係

本件賃貸借契約が一時使用のためのものであるか否か

被告は、本件賃貸借契約が一時使用のためのものであり、争いのない事実3の解約申し入れにより終了している旨主張する。

2  反訴関係

(一) 昭和六三年一一月一日における増額後の賃料額の確認及び増額後の賃料(二か月分)の支払い請求の訴えについて、訴えの追加的変更として平成三年一一月一日における増額後の賃料額の確認を請求し、かつ第一回目の増額後の賃料と支払済みの賃料との差額(平成三年九月分までの三五か月分)の支払いを請求することの可否

原告は、右訴えの変更は請求の基礎の同一性を欠き許されないと主張する。

(二) 賃料増額請求による増額後の賃料額の確認請求と併合して増額後の賃料と支払済み賃料との差額の支払いを求める利益

原告は、支払済みの賃料の増額後の賃料に対する不足額とこれに対する年一割の割合による支払期後の利息の請求権は、増額を正当とする裁判が確定することを条件とするものであり、右請求は将来の給付を求める訴えとなり、原告が従前の賃料を期限に支払っている本件においては、予めその請求を行う必要がないから訴えの利益がない旨主張する。

被告は、賃料の増額請求があったときは、客観的に適正な賃料額に増額の効果を生じ、かつ本来の支払時期に増額後の賃料の履行期が到来しているのであり、旧借家法七条二項は賃貸人から賃借人に対し不足分の支払いについて債務不履行責任を問えないというに過ぎないから、右不足分の請求は将来の給付請求ではなく、また仮に将来の給付請求としても、原告が弁論終結予定期日の一五日ほど前に修理工事を依頼し、その費用償還請求権を自働債権として相殺の主張をしている本件においては、任意の履行を期待することができないので、現在これを求める必要がある旨主張する。

(三) 昭和六三年一一月一日及び平成三年一一月一日における本件建物の継続適正賃料額

(四) 必要費償還請求権並びにパチンコ台及びスロットマシンの保管料相当額の債権による差額賃料債権との相殺の可否

原告は、後述のような必要費を支出したとして、その償還請求権と差額賃料債権と相殺する旨主張する。

また、原告は、本件賃貸借契約の目的物の附属設備であるパチンコ台及びスロットマシーンにつき、契約以降これらを全て新規のものと入れ替え、従前のものは第三者に保管を依頼してその保管料を支出しているが、協徳産業及び被告は、原告からのこれら物件の引き取り請求を拒絶しているので、右費用につき被告の請求する賃料差額と相殺する旨主張する。

被告は、右各相殺を争う。

第三争点に対する判断

一本件賃貸借契約が一時使用のための賃貸借であるか否かについて

1  証拠(〈書証番号略〉、原告(第一回)、証人夏山徳雨、同夏山相洪(いずれも後記認定に反する部分を除く。))によれば、以下の事実が認められる。

(一) 本件建物は、鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺陸屋根二階建の遊戯場・居宅で昭和五一年一月に建築され、訴外野並商行株式会社により同年六月一五日付で保存登記がなされた。

夏山は、昭和五三年一月一三日、本件建物につき任意競売を申し立て、昭和五四年六月七日、自ら競落した。

夏山は、協徳産業を通じ、その後、本件建物でパチンコ店「フジ」(以下「フジ」という。)の営業を開始し、昭和五四年一二月一日、原告を同店舗のマネージャーとして雇い入れ営業に当たらせていた。夏山ないし協徳産業は、それまでパチンコ営業の経験はなかった。

(二) その後、フジの営業はしばらく順調であったが、昭和六一年二月に近隣に新しいパチンコ店が開業したころから経営は悪化し、赤字を出すようになった。

夏山は、フジの赤字が続くようになったため、本件建物を賃貸するか売却することを考えるようになった。

夏山の息子で協徳産業の専務をしている夏山相洪(以下「相洪」という。)は、パチンコ機械製造会社従業員である訴外浅井弘一(以下「浅井」という。)に対し、昭和六一年一〇月ころ、フジを賃料二〇〇万円で権利金、敷金なしで賃借しないかと持ち掛けた。しかし、浅井は、フジの経営状況を知っており、権利金、敷金なしとしても賃料二〇〇万円では高額過ぎると考え、これに応じなかった。

原告は、夏山から、昭和六一年一一月三日、本件建物を賃料二〇〇万円で賃貸するのでフジの経営をしてみないかと持ち掛けられた。しかし、原告は、賃料月額一五〇万円ならやってみるが、二〇〇万円ではとても借りられない旨応答した。夏山らは、その後も、賃料月額二〇〇万円の条件による借り手を探していたが、見つからず、その間もフジの経営状態は悪化していった。

(三) 原告は、夏山から、昭和六二年二月三日、本件建物を月額一五〇万円で賃貸するからフジの経営をやってみよとの電話連絡を受けた。

原告は、早速、伊勢市の夏山方へ赴き、同人との間で、賃料以外の賃貸条件について協議した。原告は、資金がないので権利金、保証金については支払えないと主張したが、夏山も全くなしでは困るということで、結局、賃料一か月分の保証金のみを入れることとなった。賃貸期間については、原告は三年以上とすることを希望したが、夏山は、とりあえず一年位やってみろと述べ、昭和六二年二月から一年間として話がまとまった。

その際、原告は、フジのパチンコ営業の許可名義を原告に変更することを求めたが、夏山から、原告が六か月や一〇か月で営業を辞めてしまうとまた協徳産業で営業許可を取る手続が面倒になるし、原告が法人組織で経営するとすれば会社の設立には時間もかかりその名義への変更もすぐにはできないので、とりあえずフジの営業名義は協徳産業のままとし、営業を継続する目処が立ってから許可名義を変えたらどうかと言われ、原告はこれを了承した(この点に反する証人夏山徳雨の供述部分は、右のような内容の原告(第一回)の具体的供述に比して信用することができない。)。

(四) 原告は、相洪との間で、昭和六二年二月一〇日ころ、原告が買い受けるフジの景品の棚卸し等を行い、その代金を清算する等をした。

原告と協徳産業(相洪が担当)は、昭和六二年三月一二日、本件賃貸借契約について公正証書(〈書証番号略〉)の作成手続をした。

その内容は、要旨次のとおりであった。

(1) 賃貸物 本件建物及び附属設備(パチンコ台二〇〇台、スロットルマシン四〇台、コンピューター補球装置一式、クーラー二基、球貸機七台外パチンコ経営に必要な設備一式)

(2) 目的 店舗(パチンコ店)としての使用収益

(3) 期間 昭和六二年二月一日から一年間、但し双方協議の上期間を延長することができる。

(4) 賃料 一か月一五〇万円

(5) 保証金 一五〇万円 本件建物の完全な返還を受けたときは、直ちにこれを返還する(無利息)

(6) 賃料増減請求 本件建物の賃料が租税その他の負担の増減により、土地もしくは建物の価格の高低により又は近隣の建物の賃料に比較して不相当になったときは、当事者は、将来に向かって賃料の増減を請求することができる。

右賃貸期間については、原告は、三年間とすることを求めたが、相洪から、原告の経営が上手くいかない場合のことを考えて契約上は一年とするように主張され、その旨同意した。

協徳産業は、本件建物に隣接してフジに来店する顧客用の駐車場を賃借しており、その賃借人は本件賃貸借契約以降も協徳産業のままであったが、以後、地代は原告において支払うこととなった。

(五) パチンコ店におけるパチンコ台は半年ないし一年位で新しいものと交換するのが通常であるが、原告は、本件賃貸借契約以降、その当初一年間に本件建物内のパチンコ台等を殆ど新しいものと交換し、また、コンピューターを修理・改造する等してフジを経営していた。

昭和六二年八月初めころ、原告は、夏山から、本件建物を他に売りたいので、店を明け渡してほしい旨の申し入れを受けたが、話が違うとしてこれを拒絶した。

原告は、その後、自ら営業許可をとるために、協徳産業に対して廃業届を提出するように申し入れたが応じられず、逆に本件建物の明渡しの催告を受け、営業許可申請の妨害禁止の仮処分を得た上、昭和六三年三月九日風俗営業の許可を取得し、営業を継続して現在に至る。

2  判断

(一)  建物の賃貸借契約が旧借家法八条にいう「一時使用ノ為」のものか否かの判断に当たっては、建物利用の目的・態様、契約の趣旨・動機、契約期間、その他賃貸借契約に関する諸事情を考慮して、その契約が短期間内に限り存続させる趣旨のものであるか否かを客観的に判断すべきものと解される。

そこで、既に認定した事実関係を基に、右各要素につき検討する。

(二)  建物利用の目的・態様

本件賃貸借契約は、原告において、本件建物をパチンコ店として利用してフジの営業を継続するためのものであるところ、パチンコ営業は、臨時の場所において行う等の特殊な場合を除き、消耗品であるパチンコ台に対する相当の設備投資を要すること等から、通常相当期間継続して行うことが予定されているものと推認されるので、パチンコ店として利用するための建物の賃貸借契約は、特別の事情のない限り、相当期間使用を継続することが予定されているものと言うべきである。

(三)  契約の趣旨、賃貸借の動機等

本件賃貸借契約は、近隣に新規開店した店舗との競合等により本件建物におけるパチンコ店の経営が赤字となったことから、その経営者であった協徳産業がマネージャーをしていた原告に対して店舗を賃貸し、原告においてパチンコ店の営業を継続することとなったものである。

右のような本件賃貸借契約の趣旨ないし動機からすると、原告の側には一時使用のための契約をすべき事情は存在しない。

すなわち、前述のようなパチンコ営業の性格に加え、原告としては、本件建物におけるパチンコ店の経営を引き継ぎ、これにより生計を立てていく以上、本件賃貸借契約の際、相当の期間パチンコ営業を継続することを予定していたものと推認される。

本件全証拠によっても、協徳産業が、本件賃貸借契約の際にその後短期間で自らパチンコ店の営業に復帰することを予定していたような事情は窺えない。ただ夏山は、本件賃貸借契約以前から本件建物を他に売却する計画も検討していたものであり、賃借人のない店舗として高額で売却するために、売却までの間として一時使用の賃貸借契約をすることも考えられないではなく、被告はその旨主張する。

しかしながら、本件賃貸借契約当時、協徳産業において本件建物を売却する意向が固まっていた訳ではなく、しかも売却の可能性を本件賃貸借契約の際に原告に明示したことも認められない(むしろ夏山は売却はしないとの意向を示している(証人夏山徳雨、原告(第一回))。したがって、夏山が契約の諸条件を考慮した際に将来本件建物を他に売却する場合のことを念頭に置いていたとしても(証人夏山徳雨の供述中にはその旨の部分がある。)、本件賃貸借契約の際に、売却を前提として短期間内に限り存続させる賃貸借契約とすることを原告が認識ないし了解していたことを認めることはできない。

(四)  賃貸期間等

本件賃貸借契約においては、とりあえず一年位やってみろという夏山の指示や、パチンコ店の営業が上手くいかない場合のことも考えてという相洪の意向により、より長期の契約期間とする原告の希望にもかかわず、期間を一年とする合意がなされている。この期間は、前述のように継続性を有するパチンコ営業用の店舗の賃貸借としては非常に短期のものということができる。

しかし、本件賃貸借契約においては、賃貸期間は協議の上延長されうるものとされている上、賃料の増減請求の約定もなされていることからすると、期間一年の定めは、必ずしもその期間内に限り契約を存続させる趣旨であったものとは認められない。

(五)  賃料等

鑑定人安間忠一の鑑定結果によれば、本件建物につき一時使用の特約がないとした場合の昭和六二年二月一日時点における新規適正賃料額は二五〇万円とされるので、これと比較すると本件賃料額一五〇万円は低廉であったことになる。しかし、既に認定したとおり、現実には、本件建物は月額賃料二〇〇万円という条件でも借り手が付かなかったものであり、また、被告の指摘する他の賃貸事例においても賃料は月額一五〇万円ないし二〇〇万円であることや、フジの経営のためには別途顧客用の駐車場を賃借し続ける必要のあったことからすれば、一五〇万円という家賃が特に低廉であったと認めることはできない。しかも、当初二〇〇万円として提示された賃料額が、結局月額一五〇万円に減額の上契約が成立した過程においても、特に使用が一時的なものであることが理由ないし原因となっていることを窺わせる証拠はない。

また、本件賃貸借契約における保証金は一五〇万円で、権利金の約定はなく、他のパチンコ営業用の店舗の賃貸借契約に比して借主に有利な条件であると認められる(〈書証番号略〉なお、同証拠で指摘されている賃貸事例の条件が原告(第一回)の供述するとおりとしても右の事情は変わらない)。しかしながら、既に認定したとおり、相洪は、訴外浅井に対しても賃料一か月二〇〇万円で権利金、敷金無しの条件で本件建物の賃貸を申し出ているとろ、その際に短期間に限った賃貸借契約であるという条件が出された形跡は認められない。さらに、既に認定したように赤字の状態が継続していたフジの経営状況や本件建物の賃貸の動機、本件建物の建築後の経過年数、夏山が本件建物を取得した経緯、原告の資金状況等からしても、右保証金及び権利金に関する条件により、本件賃貸借契約が一時使用のための契約であることを強く推認することはできない。

(六)  その他の事情

本件賃貸借契約後もフジの営業許可名義は、協徳産業のままであったが、既に認定したように、元々赤字経営となっていたフジの経営を原告において長期間継続することが困難となった場合の名義の再変更手続の煩雑さを理由にしたことであり、一定期間経過後は、原告の名義に変更することも予定されていたものであるから、これをもって一時使用の賃貸借であることを強く推認することはできない。

また、フジの顧客用の駐車場の賃借人の名義が協徳産業のままであったことも、借地人を変更する場合には、地主の承諾を得る必要のあることからして、特に本件賃貸借契約が一時使用のためのものであることを推認させるものではない。

なお、本件賃貸借契約の際、消耗品であるパチンコ台等が買い取られることもなく賃貸の対象とされていたことは、一時使用の賃貸借であるとの被告の主張に副う事情と言えなくもない。しかし、パチンコ台は通常半年から一年内に新規の物と入替えられるものであることは、原告は勿論、協徳産業の側も承知していた事柄である(証人夏山相洪)ので、原告が夏山と本件賃貸借契約の合意をした際、あるいはその公正証書を作成した際、契約当事者間で原告が昭和六二年二月当時のパチンコ台を一年間使用し続けることを想定していたものとは考え難い。しかも、原告の資力等の事情から権利金もない契約となっていることからすれば、附属設備につきこれを一時金で原告が買い取ることが期待できない状況にあったものと推認され、反面、パチンコ台等が消耗品であるだけに本件賃貸借契約当時のその価格を評価することには困難もあったと推認されることからしても、パチンコ台等が賃貸借の対象とされたことから、一年間に期間を限った賃貸借契約であることを推定することはできない。

(七)  以上によれば、本件賃貸借契約がパチンコ営業用店舗の賃貸借であるにもかかわらず、特別の事情により、短期間に限り存続させる趣旨のものとして合意されているものと客観的に判断することはできない。

したがって、本件賃貸借契約が一時使用のためのものであるとの被告の主張は失当である。

そうすると、原告と協徳産業との間の本件賃貸借契約は、昭和六三年二月一日以降期間の定めのない賃貸借契約となり、原告は、本件建物の引き渡しを受けていたので、その後本件建物の所有権を取得した被告に対して賃借権を対抗することができることとなる。

そうすると、原告の本訴請求は理由があることとなる。

二訴えの変更について

1  被告は、当初、反訴請求として、賃料増額請求に基づき昭和六三年一一月一日以降の賃料額の確認を求めると共に同月及び同年一二月分の増額後の賃料合計六〇〇万円並びにこれに対する弁済期の以降である訴状送達の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を請求した。

その後、被告は、訴えを変更し、再度の賃料増額請求に基づき平成三年一一月一日以降の賃料額の確認を追加的に求め、かつ従来の給付請求に代えて昭和六三年一一月一日から平成三年九月末日まで(三五か月分)の増額後の賃料と支払済みの賃料との差額(合計五二五〇万円)並びにこのうち昭和六三年一一月及び一二月分合計三〇〇万円に対する昭和六四年一月一日から、うち昭和六四年(平成元年)一月から同年一二月分までの合計一八〇〇万円に対する平成二年一月一日から、うち同年一月から同年一二月分までの合計一八〇〇万円に対する平成三年一月一日から、うち同年一月から同年九月分までの合計一三五〇万円に対する平成三年九月一日からそれぞれ支払済みまで旧借家法七条二項所定の年一割の割合による利息の支払いを請求した。

2  原告は、右訴えの変更は、請求の基礎を異にし許されない旨主張する。

しかしながら、賃料増額請求に基づく増額後の賃料額の確認請求訴訟において再度の賃料増額請求に基づく再度の増額後の賃料額の確認を追加して求めることは、社会的事実としては同一ないし一連の事柄についての請求の追加ということができ、また賃借人の防御についても特に支障を生ずるものとは認められないので、請求の基礎を異にするものとは言えない。

また、第一回の賃料増額請求による増額後の賃料の確認請求にこの増額後の賃料と支払済みの賃料との差額の支払いを求める請求を追加することも、同一の社会的事実に関する請求の拡張であり、第一回の賃料増額請求に基づく賃料額の確認請求と請求の基礎を異にするものと言うことはできない。

したがって、右訴えの変更は許される。

三賃料増額請求に基づく賃料額確認請求と併合して増額後の賃料と従前賃料との差額の支払い請求をする利益について

1  旧借家法七条一項による賃料増額請求権は、形成権であってこれを行使したときに増額の効果を生ずるものであり、その増額の幅につき当事者間に争いがあっても増額の意思表示の到達により客観的に相当とされる金額に賃料が増額され、賃料の支払期限に増額後の賃料の履行期も到来するものと解するのが相当である。そして、同法七条二項は、右を前提としながら、借家人が増額後の賃料と自己が相当と考えて支払った賃料との差額につき履行遅滞の責めを負うこととなる不都合を避けるために、借家人が相当とする賃料を支払っている限り右履行遅滞についての違法性がないものとし(「相当ト認ムル借貸ヲ支払フヲ以テ足ル」とはその趣旨と解される。)、併せて確定判決により相当とされた賃料額に対する借家人が相当と認めて支払った賃料の不足分に年一割の割合による支払期後の利息(遅延損害金)を支払う義務を借家人に負わせたものと解される。

2  確かに、原告の主張するように、昭和四一年における旧借家法七条二項の追加により、増額を正当とする裁判の確定したときに賃料増額請求による増額の効果が発生する(遡及的に生じるもの解することとなる)か、あるいは増額後の賃料と支払済みの賃料との差額部分の履行期が到来する(この場合には、一割の利息は遅延損害金でなく法定利息と解すべきものとなる)と法律上定められたものと解する余地がない訳ではない。しかしながら、「相当ト認ムル借賃ヲ支払フヲ以テ足ル」との文言から、効果の発生時期ないし履行期を規定する趣旨を読み取ることは困難である。

3  そうすると、従前の賃料と支払済みの賃料との差額の支払請求は、賃料の支払い期限が到来している限り、現在の請求となるものと言うべきであり、この点において、原告の主張は理由がない。ただ、右差額に対する年一割の割合による利息の支払いに関しては、増額を相当とする裁判の確定したときに請求することができるものというべきであるが、差額の支払い請求と併合して利息を請求する場合においては、予め請求する必要があると認められる。

4  また、仮に、増額後の賃料と支払済みの賃料との差額の請求が、増額を正当とする判決が確定するまでは将来の給付の訴えとなると解するとしても、本件のように、増額の幅につき大きな意見の対立があり、借家人たる原告から増額後の賃料との差額請求に対する有益費償還請求権等による相殺が主張されている事案においては、予め請求をなす必要があるものというべきであり、いずれにしても原告の主張は失当である。

四昭和六三年一一月一日及び平成三年一一月一日における本件建物の継続適正賃料額について

1  鑑定結果

鑑定人安間忠一の鑑定結果(以下「安間鑑定」という。)によれば、本件賃貸借契約における昭和六三年一一月一日以降の継続適正賃料額は二二〇万円、平成二年一一月三〇日以降の継続適正賃料額は二四五万円が相当とされる。

また、鑑定人渡辺尚泰の鑑定結果(以下「渡辺鑑定」という。)によれば、本件賃貸借契約における昭和六三年一一月一日以降の継続適正賃料額は一七四万四〇〇〇円、平成三年五月二四日以降の継続適正賃料額は一九六万六〇〇〇円が相当とされる。

2  昭和六三年一一月一日における継続適正賃料額

安間鑑定は、差額配分法により試算賃料(二二〇万九三七三円)を計算し、この結果に基づく賃料の利回りを、実体調査(昭和六三年七月一日時点)における利回りの数値と比較して、妥当としている。

渡辺鑑定は、差額配分法による試算賃料(一五〇万六〇〇〇円)、利回り法による試算賃料(二一八万一〇〇〇円)及びスライド法による試算賃料(一五四万五〇〇〇円)を計算し、それぞれの手法の長短を考慮し、これらの平均をとって継続適正賃料額としている。

両鑑定は本件建物及びその敷地の価格についてはほぼ同様の評価をしており、同じ差額配分法の手法において結論に右のような大きな違いを生じた原因の主なものは、純賃料を算定する際の利回り率の違いにあるものと認められる。すなわち、安間鑑定においては、純賃料の算定の際、本件建物の価格に乗ずる利回りを8.5パーセント、その敷地について六パーセントとしているが、渡辺鑑定は、右利回りをそれぞれ六パーセント及び四パーセントとしている。ところで、純賃料の算定においては純賃料利回りを乗ずるのが通常であると認められるが、安間鑑定の採用する右数値は純賃料利回りとしては高すぎ、渡辺鑑定における右数値が妥当であることが認められる(証人渡辺尚泰)。

また、安間鑑定による二二〇万円の賃料額は、昭和六二年二月一日における賃料額一五〇万円に対し、一年九か月間において46.67パーセントの増額となるものであり、賃料額の増額率としては実に著しいものと言わざるを得ない。

これに対し、渡辺鑑定における一七四万四〇〇〇円は、右期間で約16.27パーセントの増額であり妥当なものと言うことができる。

その他、渡辺鑑定における各試算賃料額の算定の過程及びこれらの平均による適正賃料額の算定も合理的なものと認められる。

結局、昭和六三年一一月一日現在の本件賃貸借契約における継続適正賃料額は渡辺鑑定を採用して一七四万四〇〇〇円とするのが相当である。

3  平成三年一一月一日における継続適正賃料額

安間鑑定による平成二年一一月三〇日現在の継続適正賃料額と渡辺鑑定における平成三年五月二四日現在における継続適正賃料額は1項記載のとおり大きく異なるが、その主な原因は前項に述べたところと同様である。

そうすると前項に述べたのと同様の理由から、渡辺鑑定による数値を採用するのが相当と認められ、同鑑定による試算の時点が平成三年一一月一日の約五か月以前であるに過ぎず、他に判断の資料も提出されていないことを考慮すれば、同鑑定による一九六万六〇〇〇円を平成三年一一月一日現在における継続適正賃料とするのが相当である。

五昭和六三年一一月一日以降の増額賃料と支払済み賃料の差額の支払い請求

1  先述のとおり、本件建物の昭和六三年一一月一日以降の継続適正賃料額は一七四万四〇〇〇円とするのが相当であり、被告の請求する同月から平成三年九月分まで三五か月間の従前の額による支払済み賃料との差額は八五四万円となる。

そして、原告による必要費償還請求権等による相殺を別とすれば、被告の請求は、八五四万円のうち四八万八〇〇〇円(昭和六三年一一月及び一二月分)に対する昭和六四年一月一日から、うち二九二万八〇〇〇円(昭和六四年(平成元年)一月から同年一二月分)に対する平成二年一月一日から、うち二九二万八〇〇〇円(平成二年一月から同年一二月分)に対する平成三年一月一日から、うち二一九万六〇〇〇円(平成三年一月から同年九月分)に対する平成三年九月一日から完済まで各年一割の割合による利息の支払いを求める限度で理由があることとなる。

そこで、次に原告の主張する必要費償還請求権等の存否につき検討する。

2  必要費償還請求権について

民法六〇八条一項にいう「必要費」とは、賃貸目的物の原状維持及び原状回復に要する費用並びに賃貸目的物を通常の用法に適する状態において保存するために支出された費用をいうものと解される。

そこで、原告の主張する各費用がこれに当たるか否かにつき検討する。

(一) コンピューター修理

証拠(〈書証番号略〉、原告(第一回))によれば、原告は、訴外井上電気に依頼して、昭和六二年四月ころ、本件賃貸借契約の目的物の附属設備の一部であったコンピューター補球装置を修理し、かつ営業実績の把握に便利なように改造し、同月一一日、その費用として四一万八〇〇〇円を支出していることが認められる。

右のうちコンピューター補球装置の修理に要した費用部分については、賃貸目的物の附属設備の一部の原状回復に要する費用として、これを必要費と認めることができるが、改造に要した費用は有益費となるとしてもこれを必要費と認めることはできず、右支出金額のうち修理に要した費用部分につき証明がないので、右修理による必要費の額につき証明はないものと言わざるを得ない。

(二)リフト、地下ピット修理

証拠(〈書証番号略〉、原告(第一回))によれば、昭和六二年一一月ころ、本件建物内のパチンコ玉を地下から二階集積所に上げるためのリフトが浸水のため故障し、原告は、訴外株式会社ユニオンに依頼して、その修理を行い、同月二〇日、費用として三二万八五〇〇円を支出したことが認められる。

右は本件賃貸借契約の目的物ないしその附属設備の原状回復に要した費用として必要費と認められ、その支出は被告が本件建物の所有権を取得した以前のものではあるが、原告は被告に対して、同建物の賃借権を対抗することができる結果、右必要費の償還も請求することができるものと解される。

(三) 両替機修理

証拠(〈書証番号略〉、原告(第一回))によれば、原告は、訴外名古屋精工株式会社に依頼して、昭和六三年四月ころ両替機を修理し、同月二〇日、その費用として七万二〇〇〇円を支出したことが認められる。

これは、本件賃貸借契約における附属設備の一部である両替機について原状回復に要した費用として必要費と認められる。

(四) 雨漏り補修

証拠(〈書証番号略〉、原告(第一回))によれば、原告は、訴外徳田恵則に対し、昭和六三年六月ころ、本件建物の雨漏り箇所の補修(コーキング)工事を依頼し、同月二七日、その費用として二二万六五〇〇円を支出したことが認められる。

右は本件建物の原状を維持し、あるいは少なくとも本件建物を通常の用法に適する状態において保存するために支出された費用ということができるので、必要費として被告に償還請求することができる。

(五) 玉磨機交換

証拠(〈書証番号略〉、原告(第一回))によれば、昭和六三年七月ころ、本件賃貸借契約における附属設備の一つである玉磨機が故障し、原告が訴外株式会社ユニオンに依頼して新たな機械に交換し、同月二三日、三二万六八四〇円を支払ったことが認められる。

右は本件賃貸借契約における目的物の附属設備の一部を新規の物に入れ換えたものであり、賃貸目的物(附属設備)それ自体を保存するための費用ではないから、必要費とは認められない。

(六) クーラー修理

証拠(〈書証番号略〉、原告(第一回))によれば、原告は、訴外有限会社山下冷機工業に対し、昭和六三年八月ころ、本件賃貸借契約における目的物の附属設備であるクーラーの修理及び洗浄を依頼し、同年九月二一日、その費用として二九万円を支払っていることが認められる。

右は本件賃貸借契約における目的物の附属設備の一部につき、原状を回復しあるいは通常の用法に適する状態において保存するために支出された費用と認めることができるから、必要費として償還請求することができる。

(七) グローリー両替機、高額両替機、コンピューターの交換等

証拠(〈書証番号略〉、原告(第二回))によれば、原告は、訴外株式会社ユニオンから、平成二年五月ころ、両替機、玉貸機、コンピューター等を合計一一五一万二五〇〇円で購入し、従来のものと入れ換えたことが認められる。

これは、前記(五)項と同じく、賃貸目的物(附属設備)それ自体を保存するための費用ではないから、必要費とは認められない。

(八) 電気関連工事

証拠(〈書証番号略〉、原告(第二回))によれば、本件建物の正面屋上、北面及び塔のネオン管、電球並びに内部の電灯等が老朽化して一部ネオンや電球が点灯しない状態を生じ、原告は、訴外ミヤジマ電気工事株式会社に依頼して、平成三年一一月ころ、右電気関係設備を更新する工事を行い、その費用として一〇〇万円を支払済みであることが認められる。

右は原告がパチンコ店の営業上必要な工事として行ったものと推認されるが、右工事以前の電気関係の状態を具体的に示す証拠はなく、したがって、また原状の回復あるいは賃貸目的物を通常の用法に適する状態において保存するためにどれだけの工事を行う必要があったのかという点の証明もなく、必要費とし償還請求することはできない。

(九) 屋根防水工事

証拠(〈書証番号略〉、原告(第二回))によれば、原告は、訴外徳田建築こと徳田義則に依頼して、平成三年一二月ころ、雨漏りによる畳、壁等の修理及び雨漏りの防止のための屋根の修理(コーキング)を行い、同月一三日、その費用として三〇万円を支払ったことが認められる。

右は前記(四)と同様に、必要費として、被告に対し償還請求することが認められる。

(一〇) 天井、壁張り替え工事

証拠(〈書証番号略〉、原告(第二回))によれば、本件建物一階ホールの天井は、雨漏りのため一部表面が剥がれ、原告において目立たないようにするためにガムテープで補修し、二階の従業員宿舎部分の天井、壁も雨漏りのための劣悪な状態となっていたところ、平成三年一二月二四日、原告が、訴外インテリア加賀こと加賀照章に依頼して、本件建物の内部(ホール)天井及び壁の張り替え工事を実施し、同月二八日、その費用として四〇万円を支出したことを認めることができる。

右は雨漏りによって劣悪となった本件建物の天井及び壁を原状に回復するための費用として必要費と認めることができる。

(一一) 外壁、内部の塗装

証拠(〈書証番号略〉、原告(第二回))によれば、平成三年一二月中旬ころ、本件建物の外壁、庇下部、外部階段、塔、屋上手すり等の塗装は相当の範囲にわたってはげ落ち、鉄製の部分は一部腐食して落下する等して外観が劣化し、かつ一部危険な状態になっており、原告は、訴外島崎塗装株式会社に依頼して外壁、内部の塗装を行い、その費用が二三六万円となり、遅くとも平成四年三月二五日(〈書証番号略〉の作成日付)までに内金二〇〇万円が支払われたことが認められる。

右塗装以前における本件建物の塗装の状態は相当程度劣化していたことが認められ、しかも一部危険な状態にまでなっていたことからすると、右支出は本件建物を通常の用法に適する状態において保存するために支出された費用であることを認めることができ、右の費用のうち既に支払った二〇〇万円について必要費として償還請求することができ、未払いの分は支払い後に償還請求することができることとなる。

3  パチンコ台等の保管費用について

(一) 証拠(〈書証番号略〉、原告(第二回))によれば、次の事実が認められる。

原告は昭和六二年三月から本件賃貸借契約の目的物の附属物であったパチンコ台を一部取り外して新規のパチンコ台を入れ、その後も順次新規の台と更改し続け、取り外したパチンコ台は訴外ダイドー商会に対し、当初は六〇台、同年四月からは八〇台、同年七月からは一二〇台、昭和六三年一月からは一八〇台、平成二年四月からは二〇〇台の保管を委託し、保管料(平成二年四月以降は一か月二万円)を支払い続けている。原告は、被告に対し、平成四年三月二六日、右保管にかかるパチンコ台及び倉庫等に保管しているその他の機械について同年四月一五日までに引き取るよう催告した。これに対し、被告は、同月二日、これを拒絶する旨の返答をした。

(二) 本件賃貸借契約においてはパチンコ台二〇〇台が賃貸目的物の附属設備とされていたが、さきに認定したとおり、パチンコ営業においてはパチンコ台を半年から一年位の間には新規の台に入れ換えるものであり、本件賃貸借契約の途中において、パチンコ台を新規のものに入れ換える必要を生ずることは、協徳産業も契約の際に承知していたものと推認される。そうすると、本件賃貸借契約の継続中に入れ換えた従来のパチンコ台については、原告の求めがある場合には、信義則上、これを引き取るか、原告が処分することを認めることが、協徳産業ひいては被告の付随的義務というべきである。

そうすると、原告の平成四年三月の催告にかかわらず、右パチンコ台の受領または原告による処分を拒否した被告は、催告の期限である平成四年四月一六日以降、債務不履行により、原告に生じた損害として、前記保管料相当額を賠償する責任を負うこととなる。

したがって、原告の相殺の主張は、平成四年四月一六日から口頭弁論終結日である同年六月一七日までの二か月と一日分合計四万〇六六六円(一円未満切捨て)の限度で理由があり、右催告限以前についての主張は失当である。

4  相殺について

(一) 結局、原告の主張する相殺の自働債権として認められるのは、次のとおりである。

原因   支出時期   金額

(1) リフト、地下ピット修理

昭和六二年一一月二〇日

三二万八五〇〇円

(2) 両替機修理

昭和六三年四月二〇日

七万二〇〇〇円

(3) 雨漏り補修

昭和六三年六月二七日

二二万六五〇〇円

(4) クーラー修理

昭和六三年九月二一日

二九万円

(5) 屋根防水工事

平成三年一二月一三日

三〇万円

(6) 天井、壁張り替え工事

平成三年一二月二八日

四〇万円

(7) 外壁、内部の塗装

平成四年三月二五日

二〇〇万円

(8) パチンコ台保管費用

平成四年六月一七日

四万〇六六六円

合計 三六五万七六六六円

(二) 他方、相殺の受働債権は、次のとおりである。

(1) 昭和六三年一一月及び一二月分の差額賃料四八万八〇〇〇円に対する昭和六四年一月一日から支払済みまでの年一割の割合による利息債権

(2) 昭和六四年(平成元年)一月から一二月分の差額合計二九二万八〇〇〇円に対する平成二年一月一日から支払済みまでの年一割の割合による利息債権

(3) 平成二年一月から同年一二月分の差額合計二九二万八〇〇〇円に対する平成三年一月一日から支払済みまでの年一割の割合による利息債権

(4) 平成三年一月から同年九月分までの差額合計二一九万六〇〇〇円に対する平成三年九月一日から支払済みまでの年一割の割合による利息債権

(5) 昭和六三年一一月から平成三年九月分までの一か月二四万四〇〇〇円の割合による差額賃料

(三) 以上につき、原告及び被告のいずれも相殺する債権につき指定をしていないから、法定弁済充当により相殺の自働債権及び受働債権を決定すべきこととなる。そうすると、自働債権については、弁済期の到来した順に相殺に供され、受働債権は相殺適状にある利息債権と元本債権のうち利息債権にその弁済期の早い順に充当され、その後に元本債権のうち弁済期の先に到来するものから相殺されることとなる。

(四) 右によれば、まず、自働債権(1)三二万八五〇〇円が受働債権(5)のうちの昭和六三年一一月分の差額賃料二四万四〇〇〇円に充当され、その残額八万四五〇〇円が同年一二月分の差額賃料の一部に充当される。

そして、次に自働債権(2)七万二〇〇〇円が、受働債権(5)のうちの昭和六三年一二月分の差額賃料の自働債権(1)との相殺による残り一五万九五〇〇円の一部に充当される。

さらに、自働債権(3)二二万六五〇〇円が、受働債権(5)のうちの昭和六三年一二月分の差額賃料の自働債権(2)との相殺による残り八万七五〇〇円と平成元年一月分二四万四〇〇〇円の一部に充当される。

また、自働債権(4)二九万円が、受働債権(5)のうちの平成元年一月分の差額賃料の自働債権(3)との相殺による残り一〇万五〇〇〇円と同年二月分二四万四〇〇〇円の一部に充当され、残額が五万九〇〇〇円となる。

(五) 以上の相殺の結果、自働債権(5)三〇万円との相殺適状となる時(平成三年一二月一三日)までに生じている受働債権のうちの利息債権は、①平成元年二月分の差額賃料の残額五万九〇〇〇円と同年三月から同年一二月までの差額賃料二四四万円の合計二四九万九〇〇〇円に対する平成二年一月一日からの年一割の割合による利息債権(四八万七四七六円)、②平成二年一月から同年一二月までの差額賃料二九二万八〇〇〇円に対する平成三年一月一日から年一割による利息債権、③平成三年一月から同年九月までの差額賃料二一九万六〇〇〇円に対する同年九月一日から年一割による利息債権であり、元本債権は④平成元年二月分の残額五万九〇〇〇円と同年三月から平成三年九月までの三一か月分の差額賃料債権七五六万四〇〇〇円との合計七六二万三〇〇〇円となる。

そこで、これらのうち自働債権(5)は①と相殺されることとなり、①につき一八万七四七六円の受働債権が残る。

(六) 次に、自働債権(6)四〇万円との相殺適状となる時(平成三年一二月二八日)までに生じている受働債権のうちの利息債権は、①前項末尾の一八万七四七六円、②平成元年二月分の残額五万九〇〇〇円と同年三月から同年一二月までの差額賃料二四四万円の合計二四九万九〇〇〇円に対する平成三年一二月一四日から年一割の割合による利息債権(一万〇二六九円)、③平成二年一月から同年一二月までの差額賃料二九二万八〇〇〇円に対する平成三年一月一日から年一割による利息債権(二九万〇三九三円)、④平成三年一月から同年九月までの差額賃料二一九万六〇〇〇円に対する同年九月一日から年一割による利息債権であり、元本債権は、⑤平成元年二月分の残額五万九〇〇〇円と同年三月から平成三年九月までの三一か月分の差額賃料債権七五六万四〇〇〇円との合計七六二万三〇〇〇円となる。

そこで、これらのうち自働債権(6)は①、②と相殺され、その残額と③との相殺により八万八一三八円の受働債権が残る。

(七) さらに、自働債権債権(7)二〇〇万円と相殺適状となる時(平成四年三月二五日)までに生じている受働債権のうちの利息債権は①前項末尾の残額八万八一三八円、②平成元年二月分の残額五万九〇〇〇円と同年三月から同年一二月までの差額賃料二四四万円の合計二四九万九〇〇〇円に対する平成三年一二月二九日から年一割の割合による利息債権(六万〇〇八九円)、③平成二年一月から同年一二月までの差額賃料二九二万八〇〇〇円に対する平成三年一二月二九日から年一割による利息債権(七万〇四〇六円)、④平成三年一月から同年九月までの差額賃料二一九万六〇〇〇円に対する同年九月一日から年一割による利息債権(一二万四四〇〇円)であり、元本は⑤平成元年二月分の残額五万九〇〇〇円と同年三月から平成三年九月までの三一か月分の差額賃料債権七五六万四〇〇〇円との合計七六二万三〇〇〇円となる。

そうすると、自働債権(7)はまず①ないし④の各利息債権と相殺され、その残額一六五万六九六七円と⑤の元本が弁済期の先に到来する順に相殺され、平成元年二月分の残額五万九〇〇〇円と同年三月から八月までの差額賃料債権一四六万四〇〇〇円に充当され、その残額一三万三九六七円が同年九月の差額賃料二四万四〇〇〇円と相殺されて一一万〇〇三三円の残となり、その後同年一〇月から平成三年九月までの二四か月分の差額賃料五八五万六〇〇〇円との合計五九六万六〇三三円が受働債権の残りとなる。

(八) 最後に、自働債権(8)四万〇六六六円と相殺適状となる時(平成四年六月一七日)までに生じている受働債権のうちの利息債権は、①平成元年九月分の残額一一万〇〇三三円と同年一〇月から同年一二月までの差額賃料七三万二〇〇〇円の合計八四万二〇三三円に対する平成四年三月二六日から年一割の割合による利息(一万九三二五円)、②平成二年一月から同年一二月までの差額賃料二九二万八〇〇〇円に対する平成四年三月二六日から年一割による利息債権(六万六四〇〇円)、③平成三年一月から同年九月までの賃料差額二一九万六〇〇〇円に対する平成四年三月二六日から年一割の割合による利息債権であり、元本は前項の相殺の結果残存する五九六万六〇三三円である。

このうち自働債権は、①及び②と相殺になり、②の残が四万五〇五九円となる。

(九) 以上の相殺結果、被告の請求する債権のうち残存するのは、元本である①平成元年九月分の差額賃料の残額一一万〇〇三三円と同年一〇月から平成三年九月までの二四か月分の差額賃料五八五万六〇〇〇円の合計五九六万六〇三三円と②平成二年一月から同年一二月分までの差額賃料二九二万八〇〇〇円に対する平成四年三月二六日から同年六月一七日までの年一割による利息債権のうち前項の相殺後の残額四万五〇五九円、③平成元年九月分の残額一一万〇〇三三円と同年一〇月から同年一二月までの差額賃料七三万二〇〇〇円の合計八四万二〇三三円に対する平成四年六月一八日から支払済みまで年一割の割合による利息債権、④うち平成二年一月から同年一二月までの差額賃料二九二万八〇〇〇円に対する平成四年六月一八日から支払済みまで年一割の割合による利息債権及び⑤うち平成三年一月から同年九月までの賃料差額二一九万六〇〇〇円に対する平成四年三月二六日から支払済みまで年一割の割合による利息債権ということとなる。

六結論

以上のとおり、原告の本訴請求は理由があり、被告の反訴請求は、賃料額の確認につき主文第二項の限度で理由があり、差額賃料の支払請求については、六〇一万一〇九二円と内金三七七万〇〇三三円に対する平成四年六月一八日から、内金二一九万六〇〇〇円に対する平成四年三月二六日から各支払い済みまで年一割の割合による損害金の支払いを求める限度で理由があり、その余は失当である。そして、仮執行の宣言については相当でないので、これを却下して、主文のとおり判決する。

(裁判官藤井敏明)

別紙物件目録

名古屋市鳴海町字山下一〇五番地二、一〇六番地四

家屋番号 一〇五番二

鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺陸屋根二階建遊戯場居宅

床面積 一階 336.07平方メートル

二階 252.00平方メートル

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